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巧いプロレスラー、本当の意味は……

巧いプロレスラーとはなんだろう、ということを考えさせられたのは、『週刊大衆』(12月2日号)の連載、柳澤健氏が書いている「1964年のジャイアント馬場」(第24回)です。

同誌には、まずプロレスの“本場”アメリカについて書かれています。ズバリ、白人が善玉、有色人種が悪玉というアメリカのプロレスとは何なのかが解説されています。

プロレスの基本になる部分なのでもう少しだけその要約を書きます。

アメリカはそもそも17世紀、ヨーロッパから移り住み建国されたが、その際、大量のネイティブ・アメリカンに対する虐殺と収奪を行った。

だから、アメリカ白人は、自分たちを正当化するため建国神話が必要だった。そこで次のようにした。

アメリカ白人は、宗教的迫害でイギリスからメイフラワー号で新大陸に移り住んだビルグリム・ファーザーズの末裔である、しかし、無知で野蛮なネイティブ・アメリカンたちは略奪と暴行を働いたから、自分たちは正義と正当防衛のためにたたかった、と。

しかし、捏造された歴史には無数の反証が立ちはだかる。そこで、アメリカ白人は正当化の主張をずっとし続けなければならなくなった。
そこで作られたのが、ネイティブ・アメリカン虐殺を反転させて描いた西部劇であり、その焼き直しがハリウッド製のアクション映画やプロレスであった。

連載ではそれを「自己愛性パーソナリティ障害」としてこう書かれています。
真実から目を背けるアメリカは自己愛に脅迫的に突き動かされ、無意味な戦争を繰り返す
日本人や日系人レスラーが、田吾作スタイルで反則する役回りは、西部劇の発想なんですね。

ジャイアント馬場は田吾作スタイルではなかったようですが、ひげを蓄えた怪物然としてリングに上がっていました。

1964年のジャイアント馬場.png

同誌はさらに続きます。

一方で、アメリカは階級社会でもあった。

先行の移民に比べて後発組は主にブルーカラー層となった。

バディ・ロジャースは、ピルグリム・ファーザーズの末裔を標榜するWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)のパロディだったとしています。

「優雅さと上品さを気取りつつ、実際にはレフェリーの目の届かぬところで平然と不正を行い、自分の懐を肥やすことしか考えない卑怯でずる賢い俗物たる支配階級」を演じたのだといいます。

そうしてみると、プロレスというのは、一方ではネイティブ・アメリカンなどを「成敗」するフィクション、もう一方で、アメリカの労働者階級が支配階級を戯画化するものだったんですね。

でもアメリカ白人自体に「自己愛性パーソナリティ障害」があるから、「自己愛性パーソナリティ障害」を演じたバディ・ロジャースはNWA世界ヘビー級チャンピオンになれたということです。

こうしてみると、プロレスは強さではなく巧さ。それも技をかけるテクニックではなく、「観客の心をつかむ巧さ」が求められるんですね。それが結果として「客を呼べるレスラー」になるということです。

以前、「週刊現代」(2012年6月9日号)の座談会で、グレート・ザ・カブキがジャイアント馬場についてこう言っていたことがあります。
カブキ 身体能力もズバ抜けていましたが、レスラーから見て、馬場さんが抜きん出ていたのは、試合をしながら、お客さんの気持ちを摘む能力。たとえば、相手に技をかけられているときも、お客さんの反応をうかがっている。それで、馬場コールが沸き上がったりすると、あえて技を返さずにぶっ倒れたりする。お客さんは馬場さんが反撃してくれると期待して声援を送っているのに、そこを裏切るわけです。そうすることで、お客さんは「大丈夫だろうか」と前のめりになる。相手のレスラーだけじゃなく、観客とも駆け引きしているんですね。
 この能力の凄さは、リング下で見ているレスラーでもなかなか気付かないし、真似できるものでもない。
僕も馬場さんがやっていることの凄さを理解するまでに20年以上かかりました。
ジャイアント馬場はバディ・ロジャースを最高級に賞賛していましたが、おそらくプロレスの「巧さ」をそこに学んだのでしょう。

テレビ番組のボタン押しアンケートで、女子プロレスラーに「ジャイアント馬場に勝てるか」というような質問で「イエス」と答えたバカがいましたが、何もわかっていないんですね。





少なくとも、そのバカがジャイアント馬場に「巧さ」で勝てるなら、こんにちの女子プロレスは衰退していないでしょう。

客が入らないから女子プロレスは衰退したのです。

そもそも、前回の天龍源一郎の話のように、「勝負」であっても、ジャイアント馬場にのしかかられたら女子レスラーはひとたまりもないでしょう。

文字通りバカも休み休み言えという話です。

週刊大衆 2013年 12/2号 [雑誌]

週刊大衆 2013年 12/2号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/11/18
  • メディア: 雑誌

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ミスカラス

こんばんは・・馬場さんが、ボボ・ブラジルにココバットを食らった恍惚の表情とか、サンマルチノのベアハッグで締め上げれた際に、もがき苦しんで脳天唐竹割りを食らわす一連の動きとか表情が大好きでした。

プロレスは、誰が強いとか問題ではないです。いかにお客さんを楽しますか、それにつきます。昔の東スポの一面が懐かしいです。
by ミスカラス (2013-11-29 20:06) 

昭和プロレス

ミスカラスさん。
東スポの見出しは芸術的でしたね。
by 昭和プロレス (2013-12-01 15:58) 

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